Gallery -如月-《凛(りん)》2005年

《凛(りん)》2005年

《凛(りん)》2005年

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「凛(りん)2005年」

2月は寒い中にも
春の訪れを少しずつ感じることのできる時節です。
比較的温暖な岡山では、
2月でも雪が降ることはまれですが、
北の方に行けばそれなりの雪景色に遭遇します。

かつて私が、遠方より来てくれた友人を
吹屋に案内した時のことです。
2月下旬の少し春めいた空気を感じながら
坂道を車で登っていくと、
吹屋に近づいた辺りで魅力的な残雪の光景に出くわしました。
芽吹き前の若い裸木が一本、
雪の残る大地からすっと立ち上がり、
大空に向けて枝を大きく広げていました。

激しく動く雲を背にしたその姿は、
まるで志を持った一人の青年が、
大きく深呼吸して、
世の中に向かって何かを発信しているかのようでした。

とりあえずその印象をとどめようと、
カメラにその光景を収めました。

その時点でこの光景を絵にしたいと思ったので、
とりわけ裸木は色々な角度からその姿を撮影しました。
その時の私は、
車の中に待たせている友人のこともすっかり忘れて、
その光景を記憶にとどめることに必死でした。

これは絵描きの性(さが)ですから、
友人も理解してくれているのですが、
今から思うと申し訳なかった気がします。
しかし、このような機会は
まさに千載一遇なのですから、逃すわけにはいきません。
しかもこの時は、絵の構図だけでなく、
絵の題名までが浮かんでいたのです。

残雪の大地に颯爽と立ち尽くす裸木の姿に、
私は凛とした空気を感じたので、
これから描く絵の題名を《凛》としたのです。

絵全体のイメージは、
私が私淑するドイツ・ロマン派の
C.D.フリードリッヒの雰囲気に近いものにしようと思いました。
気持ちがどんどん乗ってきたので、
いい絵が生まれる予感がしてきました。

実際の作画では、
木の背景に遠くの山々を幾重にも配しました。
この山々にまだ細い幹を支えさせたのです。
そして若木が根を張る大地には、
残雪の隙間から顔を覗かせる
たくましい雑草の姿を細かく描写しました。
まだら雪が自然に見えるように、
かたまった雪の形にも工夫を凝らしました。

私は自然が見せてくれる折々の姿にやたら感動する人間ですが、
その体験が絵になった時は本当に嬉しいですね。
やはり、
芸術的な創造活動の原点に感動があるのだ、
ということがよくわかります。

この絵を見て、皆さんの気持ちがシャキっとしてくれたらいいのですが。

 
泉谷 淑夫

 

 

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