Gallery -文月-《On the Piano》

《On the Piano》

 

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「On the Piano」

いよいよ蒸し暑い夏がやってきました。
汗もかくし、スタミナも消耗するし、結構ハードな季節ですが、
私自身はこの季節になると、何故か体調が良くなり、
元気が出てくるから不思議です。
好きな季節は秋なんですが、
体調が良くなるので夏も嫌いではありません。

何しろビールがうまいじゃないですか!
それからTシャツ一枚で過ごせるというのも、気楽でいいですね。
私にも気に入ったTシャツがいくつかあり、
夏はそれらを着るのが楽しみなんです。
お気に入りの中で多いのは、やはり猫がデザインされたものでしょうか。

猫と言えばこの季節、
衣替えをすることもなく毛皮をまとっているのだから大変だろうと思いきや、
ちゃんと夏使用の毛皮に着替えているんですね。
寒い時期にはほとんど抜けない毛が、
暑くなる5月頃からどんどん抜け落ちて、
今は結構身軽になっています。
そんな猫でも蒸し暑さは苦手らしく、
涼しい場所を探しては体を休めています。
猫は季節ごとに一番快適な場所を見つける天才だと聞いたことがありますが、
我が家の愛猫ムク(無垢)もご多聞に漏れず、
日々快適な場所で安楽な暮しをむさぼっています。
そんなムクのこの季節のお気に入りの場所はと言えば・・・。

今月の絵は、
ムクがお気に入りの場所で気持ちよさそうに寝ている一枚です。
場所がどこかわかりますか?
なんと居間に置かれたグランド・ピアノの上なんです。
そこで題して《On the Piano》。
猫は高い場所が大好きです。
しかもピアノの上はひんやりして気持ちよさそうです。
ムクの体は真っ白なので黒いピアノの上だとより引き立ちます。
この光景を目にした瞬間、
絵に描こうと決めました。
とりあえず写真を撮ったのですが、
猫の体に露出を合わせると、
ピアノに映った姿は暗くつぶれてしまいます。
ピアノに映った姿に露出を合わせると、
今度はムクの体が真っ白く飛んでしまいます。
写真ではピアノの上の猫の姿とピアノに映る猫の姿を同時に捉えることは難しいのです。そこでそれぞれに焦点を当てた写真を撮り、
それを画面上で合成することにしました。
写真では捉えるのが難しい状況を描きだすのはちょっとした快感です。
ピアノの平滑な黒い面に映り込んだムクの至福の表情を描き出すこと、
そして実像と虚像が一体化することがこの絵の肝であることは分かっていたので、
そこに神経を集中させて描いていきました。

この絵のもうひとつのポイントは情景をトリミングした構図にあります。
問題はピアノの上という状況を見る人にどう伝えるか、ということです。
トリミングしているので、
ピアノの全体像を示すことはできません。
そこで猫を画面上に寄せ、手前を開けて空間的な広がりを出すとともに、
ピアノの蓋に付いている金属の蝶番(ちょうつがい)を縦に走らせることで
それとなく暗示してみたのです。
この作戦、私としては結構気に入っていますが、
皆さんはどう思われたでしょうか?
そして蝶番にちょこっと架かったムクの足先も、
この絵のチャームポイントなのです。

泉谷 淑夫

 

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