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「いつか見た空」
今年も最後の月がやってきました。
いよいよ、これからは寒い冬に突入です。
今年の11月は、山や里のすばらしい紅葉で眼福を味わいました。
では12月の風物詩はなんだろうと考えてみると、
最近送られてきた立派な林檎のことを思い出しました。
そうなんです!
今は林檎がおいしい季節なんですね。
皆さんは林檎が好きですか?
私は毎日のように食べています。
と言う具合に、林檎は私にとって
長い間食べる対象でしかありませんでした。
ところが、何年か前に我が家に箱詰めの林檎が送られてきて、
取り出してみると
その大きさ、形、色艶にいたく感動してしまったのです。
そうなると創作意欲がむくむくと頭をもたげてきて、
その立派な林檎を描くしかないと思い立ちました。
絵描きの性ですね。
それまで私は
玉葱や柘榴、柿や南瓜は描いたことがありました。
特に玉葱と南瓜はたくさん描きました。
それらには形や色に独特の魅力があって、
絵心を刺激せずには置かないからです。
それらに比べ林檎は、
あまりにも形や色が記号化していて、
変化に乏しいような印象でした。
しかしその認識が間違っていたことを、
その時に思い知らされたわけです。
林檎には林檎にしかない魅力と言うものがあったのです。
実際描いてみると、
形にも色にも豊かなニュアンスがあり、
充実した時間を過ごすことができました。
林檎を編み籠に入れて描いたのは、
尊敬するカラヴァッジョの静物画を意識したからです。
問題は背景の処理でした。
これだけの林檎をただの静物画にしておくのはもったいないと考え、
背景をあいまいにして、
画面の上に青空を描くことにしました。
それは林檎に象徴される自然の生命力のたくましさに対抗できるのは、
スケールの大きな空しかないと思ったのと、
この林檎たちもかつては青空の下で、
長い時間を過ごし、
ここまで育ったんだという感慨があったからです。
するととても画面全体がすっきりしました。
静物画の背景に空という組み合わせはあまりないと思いますが、
立派な林檎たちにはとてもふさわしく思えました。
そこで題名を《いつか見た空》にしたのです。
泉谷 淑夫