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「空の花」
この絵は1996年の「第6回 花の美術大賞展」に出品した絵です。
私が岡山に来て二年目の11月に、私の「人生の師」とも言うべき数学教師のU先生が
総社の私の家を訪ねてくれました。
その時には総社市内の備中国分寺や井山宝福寺、鬼の城(きのじょう)はもちろんのこと、
和気の閑谷学校にも足を延ばしました。
そんな折、邑久町でバルーン・フェスティバルが開催されるとの情報が入り、
気球の取材を兼ねて、ここにもU先生と繰り出しました。
気球はすでにその当時から私の絵の世界では貴重なモチーフの一つになっていました。
しかし、空を飛んでいる気球を見た経験や、写真資料等はある程度持っていたものの、
実際に気球が飛び立つシーンや降り立つ様子を間近で見たことがなかったので、
まさに千載一遇のチャンスに思えました。
もっともテンションが高かったのは私だけで、
U先生の方は「ドライブに付き合うか」程度の気持ちだったと思います。
果たして現地で初めて見た気球の群れが次々と飛び立つ様は圧巻でした!
広い河川敷に平らに広げられた気球にガスバーナーから温かい空気が吹き込まれ、
蠢きながら次第に膨らんでいく様は、
まるで巨大な有機的生命がゆらゆらと立ち上がるようにも見えました。
その後、操縦者が籠に乗り込んで大空に向かって飛び立つまでのシーンを、
憑かれたようにカメラに収めました。
何しろ巨大な気球が少しの間隔で大空に舞い上がるので、
目移りはするは、
移動はしなくちゃならないはで、
とにかく忙しかった記憶があります。
それでもあまり見たことがなかった、真下からのショットが何枚か撮れたのは収穫でした。
この時に目の当たりにした光景の記憶と撮影したたくさんの写真から生まれたのが、
《地の花》と《空の花》という対作品です。
《地の花》は、地上で寝た状態で目いっぱい膨らんだ気球の姿をできるだけ現実に即して、
《空の花》はたくさんの気球が海の上を悠然と飛んでいる様を自由に想像して描きました。
どちらも気球が膨らんだ状態を「花」に見立てていますが、
それはカラフルな気球をこの時に実見して、
まさに地上と大空に咲いた大輪の「花」だと感じたからです。
11月の抜けるような青空に気球の色彩がよく映えていました。
この時期は空気も乾燥してくるので、気球が飛びやすいのでしょうか。
ところで私の絵に出てくる気球のデザインは私のオリジナルです。
実際の気球のデザインを参考にしますが、
やはりそのままでは絵の雰囲気や画面効果にそぐわないからです。
また形も「私好み」に変えてあります。
それは、昔よく描いた電球や
今でもよく描く玉ねぎやカボチャの形に近づけているということです。
皆さんは気づかれましたか?
自分の好みの形や色を使っている時って、画家は幸せなんですよね(笑)
泉谷 淑夫