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「ダブルムーン」
私の生まれ月、10月がやってきました。
空気が澄んでくるので、1年で一番お月様がきれいに見える季節です。
過ごしやすく、食欲も増す季節ですから、
夏の疲れが出ていた人たちも、
きっと元気を取り戻すことでしょう。
さて10月2日(月)からは私の32回目の個展が六本木の湘南台ギャラリーで始まります。
今年は奈義町現代美術館で春から初夏にかけて、
大がかりな個展をやっていますから、
年間で2度目の個展開催ということになります。
奈義の展示は大作中心で、
近作と新作を一堂に見てもらう内容でしたが今度は小品の新作をたくさん並べます。
それもすべて「羊の世界」です。
いつも並べている風景や静物や猫の絵はありません。
個展の出品作がすべて「羊」というのは、初めてです。
しかもテーマを『月と羊のファンタジー』としているので、
ほとんどの絵が「月と羊の組み合わせ」です。
展示が単調にならないか、
発想は出るのかという不安がなかったわけではありません。
でも会場を何度か下見した結果、
今回は「羊の世界」で勝負しようと決めました。
『月と羊のファンタジー』というテーマで連作を発表したのは、
2年前のギャラリー倉敷での個展が最初です。
これに対する来場者の方の反応や評価がよかったので、
新しい仕掛けでパートⅡをやってみたくなり、
今回の決意に至ったのです。
前回は画面の大きさをすべてサムホールで統一した代わりに、
それぞれにデザインの異なる凝った額縁を付けて変化をつけました。
今回は画面の形や大きさが変化に富みます。
縦長、横長、正方形、八角形、円、楕円など多彩です。
もちろん額縁も変わった額縁ばかりです。
新しい発想の絵も多く含まれているので、
来場可能な方はぜひ会場で、
ちょっと変わった「月見」を楽しんでください。
ネットでしか私の絵を見られないという方もいると思いますので、
今回は個展出品作の中の目玉作品を紹介します。
題名は《ダブルムーン》。
一枚の絵の中にお月様が二つも出てくる、なんとも贅沢な作品です。
この絵を見られて、かつての私の代表作を思い出された方はスゴイ!
その絵とは、小磯良平大賞展で優秀賞を受賞した《顕現》です。
この絵では月は一つですが、実は《顕現》のエスキースでは月が二つ出ているのです。
その絵は2冊目の作品集『羊の惑星』にカラー図版で登場しています。
その時の気持ちは、
岡本太郎の「グラスの底に顔があってもいいじゃないか!」
というCMの決め台詞をもじって、
「夜空に月が二つ出ていてもいいじゃないか!」というものでした。
私はこの時、「常識を破る快感」を初めて味わったのかもしれません。
しかし意外と常識人の私はそれ以降、月を二つ描いたことはありませんでした。
でも今回は「月と羊」で勝負するので、
どうしてもインパクトの強い発想が欲しくなりました。
そこで《顕現》のエスキースのリメーク版として
《ダブルムーン》を描くことにしたのです。
巨大カボチャの肩の部分に大きな三日月がかかっている構図は同じですが、
それ以外の部分は大きく変えました。
カボチャの下をカットして巨大さを強調し、
2頭の羊をカボチャの上に載せて目立たせました。
豊饒な自然の恵みへの畏敬と自然の超常的な現象への畏怖の念を込めて描いた一枚です。
泉谷 淑夫