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「猫たちといるフェルメール風室内」
皆さんは、フェルメール・センター銀座をご存知ですか?
フェルメール・ブームがピークにあった2012年に
銀座にオープンしたギャラリーで、
フェルメール研究者の一人、
福岡伸一氏監修のもと、
「リ・クリエイト」という最新の複製技術で
フェルメールの全作品を現代によみがえらせ、
それらを原寸大、
描かれた当時の色彩、
そして制作順に展示しているのが「売り」のギャラリーです。
もちろん、描かれた当時の色彩というのは、
あくまで福岡氏ら制作者側の推測なので、
異論はあるでしょう。
また制作順というのも同じく推定ですが、
こちらは多くの研究者によって出されている仮説を総合していると思われるので、
結構信頼度は高いのではないかと思われます。
そもそもフェルメールの全作品踏破は、
現時点においては不可能なのです。
それはアメリカのイザベラ・ガードナー美術館の《合奏》が、
盗まれたまま今だに戻っていないからです。
そうなると複製とは言え、
一箇所でフェルメールの全作品に会えるというのは、
現代のちょっとした「夢」ではありますね。
というわけで、私もフェルメール・センター銀座をかつて訪れたことがあります。
学生を連れたゼミの研修旅行の一環でした。
フェルメールの実作には、
それまでの海外旅行で相当数出会っていましたし、
近年は日本にも毎年のようにフェルメールの実作が来日していたので、
「本物を感じる力」はかなり身についていたと思います。
それが災いしてか、精巧な複製画とは言え、
作品の重厚感やオーラがあまり感じられず、
入場料の千円は高かったかなと思いました。
しかし複製画よりももっと面白いものが、下の階の展示室にあったのです。
それがフェルメールの《手紙を書く婦人と召使い》の絵の舞台を再現したセットだったのです。
しかも来場者はそこで記念撮影ができるということだったので、
私は俄然張り切って、
撮影に励みました。
学生に絵の中の女性と似たポーズをさせたり、
私自身も立っている召使いのポーズを真似たりして、
写真を撮ってもらいました。
複製画よりも、案外こういう遊び的なしかけの方が
フェルメール絵画の本質に迫ったりできるものです。
その時に撮影した何枚かの写真から生まれたのが、
今回紹介する1枚です。
10月は私の誕生月(13日が誕生日)でもあるので、
『ギャラリー暦』初登場の「自画像」にしました。
題名は《猫たちといるフェルメール風室内》です。
この絵は『フェルメールの絵に忍びこんだ猫たち』のシリーズの
スピンオフ作品のような位置付けで、言わば
『フェルメールの絵に忍びこんだ猫たち』の楽屋裏を描いたものです。
フェルメール風の部屋で、
それぞれの作品に忍び込んでは、
それなりに演技していた猫たちも、
リラックスしてくつろいでいます。
なにしろ『フェルメールの絵に忍びこんだ猫たち』の
シリーズのミッションは、
「フェルメールの絵の雰囲気を壊さないようにして、
その存在をさりげなく主張してくる」というものでしたから、
絵の登場人物たちの邪魔をしないように、
猫たちも居場所やポーズに相当気を使っていたのです。
しかし、ここは楽屋裏ですから何の気兼ねも要りません。
緊張しているのは初めて画面に登場した作者だけで、
彼だけが一生懸命フェルメールの絵の人物に成りきろうと必死なのです。
猫たちは、上からゴロ太、ムク、チャゲで、
カーテンの傍で遊んでいるチャゲを子猫として描いたのは、
大人になってから我が家に住みついたチャゲの子ども時代を知らないので、
ちょっと想像してみたくなったからです。
泉谷 淑夫