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「9.11の記憶」
毎年9月になると思い出すのが、あの「9.11」の大事件です。
あの日のことは今でも鮮明に覚えています。
横浜高島屋での個展を翌日に控えて絵の展示を済ませ、スタッフと前祝の飲み会で盛り上がった後、
夜の10時少し前にホテルの部屋に入り、テレビをつけたら、
まさに旅客機が国際貿易センターのビルに突っ込むシーンが目に飛び込んできたのです。
超高層ビルが破壊され、崩壊していく様は、
最初は映画のワンシーンにしか思えないほどのスペクタルでしたが、
直後にそれがニュース映像だと知り、愕然としました。
その後はずっと放映される関連ニュースに釘付けでした。
翌朝もニュースはこの事件を報道し続けていましたから、後ろ髪を惹かれる思いで個展の会場に向かいました。
こんな異様な雰囲気の中、個展の初日を迎えるのは初めてでした。
案の定、お客さんはなかなか現れてはくれませんでした。
みんなテレビのニュースを見ていたのでしょう。
どれだけ時間が経ったかはよく覚えていませんが、
最初のお客さんの姿が入り口に見えたときは、本当に嬉しかったし、ほっとしました。
やはり絵は見てくれる方がいて初めて成り立つものですからね。
その日の午後からは、いつものようににぎやかで、応対に追われる毎日でしたから
事件のことはとりあえず片隅に置いておくことができました。
実はこの個展が終えたら、ニューヨークに旅行しようと考えていて、
ホテルで読もうとガイドブックを2冊準備していたのです。
この計画は当然延期となりましたが、だいぶ後になってニューヨーク行きは実現しました。
この時に撮った写真を元に描いたのが、《三つの自由》です。
自由の女神と飛行船とカモメを組み合わせた構図で、視点は極端なあおりです。
一見自由の女神とわかりづらくしているところがミソです。
自由の女神の下でカモメが騒いでいるのは、
この数秒後に上空の飛行船が爆発するからなのです。
近代文明の力で、人間は動かない巨大なモニュメントも動く巨大なモニュメントも自在に作り上げましたが、
それらはしばしば人間のきまぐれによって、破壊されても来ました。
その瞬間をカモメたちは動物の本能によって鋭く察知し、騒いでいるのです。
羊の出てこない珍しい絵ですが、9.11の記憶が色濃く反映している一枚と言えるでしょう。
泉谷 淑夫