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「風化」
今回は20年前の8月の話をします。
その時私は岡山大学に来て5年目の夏休みを迎えていました。
何故20年前の8月なのかというと、その時期に岡山での初個展を開いたからなのです。
そしてその個展の規模が、私の中では過去最大だったからです。
会場は倉敷市立美術館、会期は8月25〜30日の6日間、
出品点数は37点ですが、
すべて大作で構成された展示で、
F130号からS80号の作品を中心に並べました。
この展示の意図は、
岡山での初個展なので、
私の代表的な絵画世界の変遷を約15年間の歩みで示すとともに、
インパクトのある内容で、
岡山の人の目に私の絵画表現を強く焼き付けたい、というものでした。
そもそもこの個展は、
1年前の横浜高島屋での初個展開催中に急遽決めたものです。
実は岡山大学に移って最初の1、2年は、岡山の美術事情がよくわからないので、
神奈川県の馴染みの画廊で第9回展、第10回を開いたところ、
第10回展の大盛況を見た横浜高島屋の美術部の人が私をスカウトして、
1997年の夏に横浜高島屋での初個展が実現したのです。
神奈川県にいた時には縁のなかった横浜高島屋での個展開催が、
岡山に移ってから実現するというのも、なんだか面白い展開ですが、
その個展開催を岡山大学のゼミ生たちに知らせたところ、
何と5名の学生が岡山からはるばる見に来てくれました。
私は大変嬉しかったと同時に、
そろそろ活動の拠点を岡山の方にも作らなければと思い至りました。
思い立ったらすぐ動くのが私流。
岡山で大きな個展を開ける会場を探したところ、
倉敷市立美術館の2階の展示室が借りられることがわかり、
すぐ申し込み、抽選の結果個展開催が決まりました。
それからの1年間はとてもハードな準備期間となりました。
少しでも新作を多く出そうと思い、例年の倍の量の大作を描きました。
調子もよく、
年明けには『花の美術大賞展』と『トリックアート大賞展』というふたつの全国公募のコンクールで大賞を連続受賞。
これで完全に勢いづきました。
その頃、個展の中心作として描き、案内ハガキにも使ったのが、
今回紹介するF120号の《風化》です。
《風化》はタイミング的にコンクール等には出していませんが、
私の中では代表作の一つだと自負する作品です。
巨大な恐竜の頭蓋骨のそばでのんびりと過ごす羊の群れと、
羊たちに背を向ける巨大な羊飼いの姿を3か月かけて描きました。
羊飼いの頭がなく、
体が足下から消えかかっているのは、
リーダー不在の現代社会を反映させたものです。
つまり手前の羊たちは、
遠い過去に栄えた恐竜が滅んだ理由にも、
社会の混迷状況にも気づかない私たち日本人の現在の姿に他ならないのです。
このような強いメッセージ性を持った私の絵が、
岡山でどのように受け止められるのか、
期待と不安で始まった個展でしたが、
マスコミにも大きく取り上げられ、
来場者も6日間で1142人と私の個展では当時の最高を記録し、
とても収穫の多い個展となりました。
来場者にリピーターが多かったのも印象的でした。
もっともハードな制作の代償もありました。
半年間で体重が5キロも減ってしまったのです。
そして体力も急激に落ち、
腰痛も出て、1年後には医者に勧められて、
体力作りのためのジム通いが始まるのでした。
ちなみにこの作品は、
今年の10月13日(土)から21日(日)にかけて開かれるギャラリー倉敷での個展に久しぶりに出品予定です。
個展のテーマを「倉敷美術館での岡山初個展から、羊たちはどのように変容したのか」とした関係で、
20年前の個展出品作の中から代表的な大作2点(もう1点は《雲の伝説》)を同時展示することにしたのです。
皆さんにもぜひご来場いただき、
近年の羊の絵との比較を楽しんでいただければと思います。
泉谷 淑夫