Gallery -弥生-《一日の終わり》

《一日の終わり》

 

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「一日の終わり」

いよいよこの3月で私も定年退職します。

ただ「新年のあいさつ」でもお伝えしたように、
4月からは大阪芸術大学に移って学生の指導をするので、
緊張も切らしていませんし、
まだまだ一線でやれるという自負もあります。

しかし岡山大学を去ることで、
大きな節目を迎えたことは感じていますし、
それなりの感慨もあります。

大学卒業後、神奈川県平塚市の新設中学校に赴任してから、
全くブランクもなく43年間の教員生活を送ってきました。
その間に公立中学、国立大学の附属中学、国立大学の教育学部と大学院、
そして教育学部の附属幼稚園と、
すべて異なる学校種を経験できたことは、
今から思うと幸運でした。
お陰で異動するたびに新鮮な気持ちで仕事に取り組むことができました。
学校種だけでなく、
職場も平塚市、横浜市、岡山市と移りましたので、
広い視野を得ることができました。

4月からの新天地も学校種は私立の美大で場所は大阪ですから、
また新鮮な気持ちでやれると思います。
常に新しいことにチャレンジ!
これが自分の運命なのかなと思う次第です。

以上のような経緯から今月の絵は、
最新作の《一日の終わり》にしました。

3月は年度の終わりですし、私の仕事も一区切りですから、
この絵で自分にも「お疲れ様」を言ってみたくなったというわけです。
絵に描かれているのは、太陽が傾き、
月が昇るトワイライト・ゾーンに羊群が帰路についている情景です。

手前には群れを離れた一匹の羊が大地を踏みしめ、顔をこちらに向けています。
完成後にこの絵を見た時、この羊は自分かもしれないと思いました。
黄昏ゆく空には二つの気球がゆったりと浮遊しています。
この気球たちも一旦地上に降りるのでしょう。

久しぶりに気球を描いたのは、
岡山大学に赴任した当時、
よく私の絵に登場したモチーフが気球だったからです。
二つ空に浮かべた意味は、皆さんが想像してみてください。
背景の山々のシルエットには、
私の生まれ故郷・伊勢原市にそびえる
霊山・大山(おおやま)の記憶が色濃く出ています。
こんなところにも《一日の終わり》に込めた私の思いを感じてもらえたら幸いです。

この絵のポイントは、黄昏時の光の表現です。
沈みゆく太陽を画面左の外に設定し、
昇りゆく月を画面の右に配し、
空の色を画面左から右へ、
明から暗へとグラデーションさせ、
時の移りゆく様を表しています。

一日の中でこの黄昏時ほど神秘的な時間帯はありません。
そして黄昏はとてもロマンティックです。
何しろ大地から太陽と月が同時に拝めるのですから。
またこの時間帯の何とも言えない微妙な色合いにも魅力を感じています。
いつもその色は直感で作るのですが、
気に入った色が出た時は、してやったりの心境です。

太陽と月の間に二つの気球を浮遊させたのは、
画面にゆったりとした動きを導入するためです。
この二つの気球の間に距離感を出すのが工夫した点です。
気球の色をよく見てください。
手前の気球に飛び出して見える暖色系の色を使っているのがわかるでしょうか。

人間は電気を発明してから、
太陽の運行とともに生活するスタイルを捨て、
陽が落ちた後も、夜遅くまで起きて過ごすようになりました。
その結果、睡眠時間が削られて体のリズムに変調をきたすようにもなりました。
私は文明の進展に対しては懐疑的で、
黄昏時に神秘や感謝を感じなくなったら、
とてももったいないことだと思います。
太陽や月の運行と人間の心身が深く関係していることに、
もう一度眼を向けたいものです。

泉谷 淑夫

 

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