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《残雪の道》

《残雪の道》

 

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「残雪の道」

3月の山歩きは、
季節の変わり目を私に感じさせてくれます。

冬と春が入り混じったような独特の空気感。

陽射しにこもるやさしく暖かい兆し。

山の木々も芽吹きのタイミングを計りながら
真冬とは異なる淡い色彩で斜面を彩り始めます。

その微妙な変化は寒さに耐えてきた身には
一筋の光明のように希望を与えてくれます。

時には残雪に出会えることもあり
そんな時はいっそう季節の移り変わりが実感できるので
貴重なひと時が過ごせます。

残雪はまさに冬から春への橋渡し役。
そのはかなさ、せつなさは、
イルカの歌った名曲『なごり雪』によく投影されています。
そしてなごり雪が消える頃には桜が咲き誇り
そこかしこに春の装いが満開となるのです。

《残雪の道》は2001年の作で
総社市にある鬼の城(きのじょう)という古代の山城跡に向かう山道を描いたものです。
その頃は「道のある風景」を集中的に描いていましたが、
この風景との出会いはまったくの偶然で
なごり雪も想定外でした。

それだけに印象は強く、
早春の竹藪に射しこむ陽射しと日陰に残る淡雪の対照を描いてみたいと
すぐに思いました。

最初はセピア調のおつゆ描きで、
しっかり構図のバランスを整えてから
徐々に部分の描写に入りました。

暗い褐色の画面の中に少しずつ緑と白の調子を加えていくと、
画面に本当に春が来たような気分になったものです。
描いていて楽しかったのは、
やはり竹に射す光の描写でした。
竹に光を入れていくと、
まさに生命が宿るように画面が活気づきました。
なごり雪はかたくならないように、
慎重に薄く白を重ねて行きました。

この絵を横浜での個展に出品したところ、
思いがけず3番目の兄が購入してくれました。

3番目の兄は、私の若き日の「人生の師」でした。
小学生の頃は“絵の先生”で、
西洋流の遠近法や明暗法も
この兄からいち早く教わりました。
思春期を迎え、
悩み多かった中学時代には
性教育も指南してくれました。
初めて勉強に落ちこぼれた高校時代には、
数学と理科の家庭教師でした。
大学受験の時には兄の下宿に泊まり、
兄が作ってくれた手弁当を持って
試験場入りしました。
また大学時代には、
学生運動や社会情勢についても教わりました。
そんな関係で兄は常に私の導き手であり、
絵にも一家言を持っていたので
私の絵を安易に褒めることはありませんでした。

だからこそ私の絵を兄が初めて買ってくれたことは、
私の大きな自信になりました。

ですからこの出来事は、私がようやく3番目の兄から自立した証、
つまり“卒業証書”だったのかもしれません。

泉谷 淑夫

 

 

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