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「WANDER」
平成時代最後のお正月がやってきました。
みなさん、お元気にお過ごしでしょうか?
本来ならば今年の年賀状デザインをご披露して、新年のご挨拶をするところですが、
昨年の2月に妻・敬子の母悦子が89歳で逝去しましたので、
今回は見送らせていただきました。
年賀状をくださった方々には、15日が過ぎましたら寒中見舞い状を送らせていただきます。
年賀状をくださった方々に、この場を借りてお詫びとお礼を申し上げます。
今年は秋から冬にかけて、大きな個展を二つ控えています。
皆さんの期待に応えられるように頑張りたいと思いますので、
今年も応援よろしくお願いします。
さて1月の絵ですが、今回は久しぶりに大作を選びました。
題名は《WANDER》、13匹の羊たちが、ループする空中楼閣を堂々巡りしている絵です。画面左奥ではロケットが発射され、
画面左手前では、なぜか宇宙飛行士が落下していますから、
時代は現代、近年の社会状況を私なりに、表した一枚です。
実はこの絵、2015年春に開催された広島県安芸高田市の八千代の丘美術館での個展のために描いた作品です。
この個展は私にとって美術館での最初の企画展でしたから、
制作にも気合が入っていたことをよく覚えています。
大きさはP150号、縦162㎝×横227㎝です。
私はこの大きさが好きで、
一陽展が国立新美術館に移ってからは、毎年この画面で描いていました。
近年は200号や300号を手掛けるようになったので、
あまり大きいという印象は受けませんが、
自宅のギャラリーに飾ってみると、やはり大きいなと思います。
この絵の構図はわりとすんなり思い浮かびましたし、
宇宙飛行士以外はほとんど私の想像で描きましたから、
作業はスムースに進みました。
ただ、私自身が高所恐怖症なので、
この空中楼閣の高さを想像するたびに、目が眩みました(笑)。
この空中楼閣は、イギリスに遺る遺跡・ストーンヘンジを積み上げたもので、
その異常な高さは現代文明の進展と危うさを象徴しています。
その上を堂々巡りする羊たちは、現代文明にどっぷりと浸かっている私たち自身の姿です。
棒を持った宇宙飛行士は「羊飼い」なのですが、
羊たちを導くどころではありません。
落下していく「羊飼い」の上を不思議な鳥が通り過ぎようとしています。
実はこの鳥は自然界の象徴で、唯一の指標なのですが、
羊たちはその存在に気づきませんし、
「羊飼い」も一瞬ヘルメット越しの視覚でその存在をとらえたもののどうすることもできません。
こうして羊たちは、不安定な道の上の堂々巡りを半永久的に強いられるのです。
昨年の暮れに続き、新年から重い話で恐縮ですが、
1970年頃芽生えた私の文明に対する懐疑の念は、
21世紀以降も強まっている感じがします。
羊を使った私なりの文明批評は、今年もこんな風に続いていくのでしょう。
最後に《WANDER》を1月の絵に選んだわけをお話ししましょう。
実はこの絵が『シープジャパン』という冊子の1月号の表紙絵として使われることになったからです。
同冊子は東京にある公益社団法人『畜産技術協会』というところの機関誌で、
1月と7月の年2回発行されています。
読者は全国の羊牧場の経営者や大学の研究者、関係者の方々のようです。
冊子の担当者の方がこの絵を気に入って使われることになったのですが、
これまでは穏やかな羊たちの写真が使われていた表紙に、
私のかなりインパクトのある絵を使うわけですから、
果たしてどんな反響があるのか今から楽しみです。
泉谷 淑夫