Gallery -睦月-《犬島風景》

《犬島風景》

 

画像をクリックするとモニタのサイズに合わせて全体像が表示されます。

 

 

 

「犬島風景」

今年の干支は戌、動物では犬の出番です。

猫派の私ですが、犬が嫌いというわけではありません。

事実、
大学時代には夏休みの1ヶ月間
「犬の散歩」というバイトをやったこともあります。
賢い1匹の犬に先導させ、残りの2匹の首ひもを左右の手で掴んで、
散歩コースを1周して帰ってくるというのが私の日課でした。
犬たちは散歩も好きですが、
途中で用を足したいという願望もあるので、
私の到着が遅れたりすると大変でした。
「ごめん、ごめん」と謝りながら犬の傍に寄ると、
我慢できずにその場でちびったりするのです。
かわいそうなので以後は決して遅れないようにしたものです。
当然散歩を欠かしたこともありません。

それから学年主任だった時代に、
不登校になっていたあるクラスの生徒を家庭訪問したところ、
玄関を開けたとたんに大きな犬に跳びかかられ、
玄関で押し倒されて、
強引にディープキスをされたという経験もあります(笑)。
母親から“熱烈歓迎”のしるしですよと、申し訳なさそうに謝られましたが、
もちろんただでは転びません。
そのことがきっかけでその生徒とはコミュニケーションが前よりもとれるようになりました。
ペットの行動って、
飼い主の心とつながっているんですよね。

というわけで、
今回は珍しく犬が登場する絵を紹介します。

その名も《犬島風景》です。

この絵はあるコレクターの方からの注文画です。
「我が家の2匹のラブラドールを描いてほしい」というのが依頼内容でした。

早速、遠路はるばるお宅を訪問して、
2匹を撮影させてもらいました。
人間にはなついているものの、
何しろ大きな犬ですから圧迫感はあります。
それでも1時間くらいで色々な写真が撮れ、
資料集めは無事完了しました。

問題はそこからどのような絵にしていくかです。
風景の中に犬を置こうというのは、
当初からの考えでしたが、
場所がなかなか決まりません。
そんな時ふと思い出したのが、
『野外写生』という大学の集中講義で訪れたことのある犬島でした。

ここには廃墟となった銅の精錬工場跡地があり、
煉瓦作りの巨大な煙突がそびえ立つ荒涼とした風景に私は魅了されていました。
その風景ならあの2匹のラブラドールにふさわしいと直感しました。

季節を冬枯れの時期に設定し、
絵の構図を練りました。
犬島の風景そのものではなく、
私なりの「犬島のイメージ」を優先し、
構図を考えました。
巨大な煙突は暗示するにとどめ、
朽ちた煙突を二本と、
海辺の工場跡地にドラム缶の列を配して荒涼感を強めました。

後は犬の配置です。

せっかく2匹描くのだから、
同じようなポーズではつまらないので、
それぞれの位置に遠近を付け、
首の向きや尻尾の状態を変えて、
ラブラドールに動きを出してみました。

こうして猫では出せない雰囲気が出たのではないかと思っています。

この絵を私は気に入ったので、
後で絵ハガキを作ったほどです。
犬島を知らない人がその絵ハガキを見たら、
犬島ってこんなところで、
犬が多いから犬島っていうのかな、
なんて誤解するでしょうか。

そもそも現在の犬島の精錬所跡地は
『犬島アート・プロジェクト』が所有・管理する私物で、
巨大な煙突も傍に近寄ることはできません。

そして犬島に多くいるのは、犬ではなくて実は猫なのです!

泉谷 淑夫

 

 Gallery -暦- へもどる