Gallery -睦月-《不安な羊飼い》

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《不安な羊飼い》

 

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《不安な羊飼い》

皆さま、新年明けましておめでとうございます。
今年も私共々『ギャラリー暦』をよろしくお願いします。
さて昨年は未年ということで、
「羊の画家」である私にもスポットが当たりまして、

テレビや新聞への登場
全7巻の装丁・装画を担当する『筒井康隆コレクション』の刊行
美術館での初の企画展
『ベスト・セレクション展』でのアーティスト・トーク
倉敷での13年ぶりの個展開催など

忙しくも充実した日々を送らせていただきました。

応援してくださった皆様に、この場を借りてお礼申し上げます。

今年は何と言っても、
通算で30回目、
横浜高島屋で10回目となる節目の個展が11月の初旬に控えています。
その折には、
記念として3冊目となる作品集の出版も計画していますので、
ぜひご期待ください。

羊の年は過ぎても頑張りますよ(笑)。
さて今年は申年ということですから、
1月の絵もそれにちなんだものにしました。
絵の題名は《不安な羊飼い》です。
この絵は最初の作品集『楽園の寓話』にも収録され、
その表紙にも部分図が使われていますので、
記憶にある方も多いのではないでしょうか。

満月の逆光の中に、
何か島のようなものが浮かび上がっています。
その上に羊飼いと羊たちがいます。
羊たちは皆足元の草を食んでいますが、
一頭だけ黒い頭の羊が顔を上げています。
この羊は何かに気付いたのでしょうか。
部分図1で見ると、羊飼いの頭は電球です。

電球頭の人間は、
羊が登場する前の私の絵のメインモチーフです。
つまりこの絵は、
メインモチーフが電球頭の人間から羊へと移行する過渡期の作品なのです。
画面の下部はかなり暗いので、全図ではよく見えませんが、
部分図2を見るとそこに重要なものが隠されているのが分かるでしょう。
そうです。島に見えたものは、実は巨大なゴリラの頭部だったのです。

前にせり出したごつい額や、その下の窪んだ眼も描かれています。
羊たちはゴリラの頭部の毛を、
それとは知らずに食んでいるのです。
この絵は、かけがえのない生存基盤を
目先の欲望で危うくしてしまう現代の人間たちの暗喩なのです。
いわば自業自得の世界、
大いなるパラドックスを表しているのです。

実は温厚そうに見える羊たちも、草を根こそぎ食べてしまう習性があるため、
羊の放牧によってヨーロッパやアフリカが砂漠化したという説もあるのです。
そう言えば、この絵に描かれているマウンテン・ゴリラも絶滅危惧種に指定されていますね。

画面の下部手前を見ると、ゴリラの島に一頭のサメが静かに近づいています。
このサメは島から滑り落ちる羊を狙っているのでしょうか。
それとも最後の島を守るために遊泳しているのでしょうか。
いずれにしろ羊たちの将来はとても不吉で不安です。
新年の始まりにあたり、明るい絵を提供できなくて申し訳ありません。
皆さんの1年は明るく希望のあるものに是非してください。
泉谷 淑夫

 

 

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