Gallery -霜月-《PEACE-甍上の休戦-》

《PEACE-甍上の休戦-》

 

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「PEACE-甍上の休戦-」

私の住んでいる総社市には、
吉備路のシンボルである備中国分寺の五重塔があります。
私は岡山大学への通勤に車を使っているので、
朝夕の車窓から眺めるこの五重塔の周囲の自然と調和した姿がとても好きです。
最近は夜間にライトアップされる機会も増えたので、
遅い帰りの時などは、その神々しい姿が見られると、
ちょっと得をした気分になります。

備中国分寺は私のお気に入りのスポットということで、
我が家を訪ねてくれるお客様たちは必ず案内しています。
絵に描けそうな場所もたくさんあるので、
『野外写生』という集中講義の場所にも選んでしまいました。
それまで『野外写生』では、
大山や尾道、真鍋島や犬島などが写生地に選ばれていましたが、
身近な良い場所を外すのはもったいないと考えて、
国分寺を選んだのです。

最初は我が家にあまりにも近いので、
どうなのかなと思っていたのですが、
サンロード吉備路を宿にして、
2泊3日で実施したところ学生たちにも好評で、
4年後に再び実施したほどです。

『野外写生』のことは以前にも書きましたが、
学生たちはそれぞれが自分の描きたい場所に腰を据えて写生するので、
私の仕事は巡回指導になります。
そして空いた時間には私も場所を選んで、
スケッチしたりするのです。

今月の絵《PEACE-甍上の休戦-》は備中国分寺での最初の『野外写生』の時に生まれた絵です。
正確には学生たちと一緒に場所探しの散策をしていた時に、
境内の小門の屋根瓦に素晴らしい龍の装飾を偶然見つけたことがきっかけでした。
それまで何度も訪れていた場所なのに気付いていなかったモチーフなので、
ちょっと興奮しました。
私は辰年生まれなので、龍の造形には殊の外興味があり、
それが意外な所にあったので、より強く反応したのでしょう。
とりあえずは写真を撮っておき、
機会があれば絵にしようと決め、
その場はやり過ごしました。
この時の『野外写生』は天候に恵まれ、
11月の陽射しはまだ強く、
日中はシャツを腕まくりするほどでした。
備中国分寺の屋根瓦にもその陽射しが降り注ぎ、
瓦にはくっきりとした陰影が浮き出て、
私には焼き物の龍が生きているように見えたものです。
この印象が後にこの絵の発想を生んだのだと思います。

しばらくしてこの時の写真を眺めていたら、
面白い発想が浮かびました。
それは龍の装飾のある屋根に我が愛猫チャゲを乗せるというものです。
そのねらいは猫を虎に見立てて、
「龍虎の対決」の構図にするところにあります。
ただし猫は本来臆病ですから、
伸びをさせて龍とは戦う気のないことを示し、
平和で長閑な秋のひと時を表現しようと、
二羽のハトを「平和の使者」として、
駄目押し的に配置しました。

この絵のポイントは、
屋根瓦をトリミングした大胆な構図と微細な屋根瓦の描写にあります。
部分図を3枚載せましたので、
猫の柔らかさと龍の硬さの対照をお楽しみください。

できた作品は風景画なのか、
構想画や見立て絵と呼べばよいのかはわかりません。
いずれにせよ、私がこの絵の制作を楽しんだことは間違いありません。
あの龍と出会った日の感動や暖かい秋の陽射しの記憶、
そして愛猫チャゲのこれ以上ないリラックスぶりが描けたのですから。

泉谷 淑夫

 

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