Gallery -長月-《午後の光と風》

《午後の光と風》

 

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《午後の光と風》

まだまだ日中の陽射しは厳しいですが、

日没も少しずつ早まり、

夜は涼しさが増して、

着実に秋の気配が漂ってきています。

 

このように夏から秋へと移り行く月である

9月の特徴はどこにあるかというと、

私は空の変化だと思います。

 

絵描きという職業柄、

空の変化には敏感な方ですが、

秋が近づくにつれ空は次第に澄み、

青色は深みを増し、

雲も細長い形に変わっていきます。

 

この変化を特に意識して絵に描く

ということはありませんが、

何故か私の描く羊のいる情景には、

この季節のものと思われる空が多いのです。

 

きっと私の心が澄んだ青空を、

そしてそこを吹き抜ける風を

いつも求めているからかもしれません。

 

というわけで、今月ご紹介する絵は

《午後の光と風》という作品です。

 

画面右側から降り注ぐ陽光は強く、

寄り添うポプラの大樹や三つ並んだ石柱、

そして親子の羊の群れをくっきりと浮かび上がらせています。

しかし雲の形や木々の様子から、

心地よい風が右から左へと吹き抜けていくのが

感じられるのではないでしょうか。

 

その風を捉えて熱気球がひとつ、

画面の中を静かに移動していきます。

 

草原では羊の親子が思い思いの方向を向いて、

ゆったりとくつろいでいます。

 

鮮明な光景ですが、実にのんびりとしています。

明るく穏やかでゆったりとした時間が

いつまでも続くことを願って描いた一枚です。

 

このような絵を私は『アルカディア』のシリーズとして、

これまで時々描いてきました。

「アルカディア」とは、

古代にギリシャのペロポネソス半島中央部に

実在していたと伝えられる“理想郷”です。

 

しかし私の場合は、

「アルカディア」を北ヨーロッパの

田園地方に置き換えて描いています。

日本で言えば、さしずめ北海道でしょう。

 

その理由は「私の中の理想郷には、

どうしても豊かな緑が必要」だからです。

これには、若い頃ギリシャを旅行した際、

パルテノン神殿のあるアクロポリスの丘に立った時に感じた

殺風景な印象が、影響しているような気がします。

 

古代でも現代でも、

人工的なものばかりで構成された都市に、

私は“理想郷”を感じられないのです。

 

この絵の中にも文明の所産と思われる石柱が立っていますが、

その高さは決して木々を超えるものではありません。

また石は自然の素材ですから、

少しずつ風化しながら、

周囲の自然に馴染んでいきます。

 

だから常に変化している木々とも調和するのです。

 

特に強い主張を持った絵ではないのですが、

これも私らしい世界なのかなと思っています。

皆さんの目にはどのように映ったでしょうか?

 

泉谷 淑夫

 

 

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