Gallery -葉月-《雲》

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《雲》

 

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《雲》部分

《雲》部分

 

 

「夜の牛舎」

ようやく全国的に梅雨明けとなり、
日本列島を本格的な猛暑が襲う厳しい季節となりました。
まさにハードボイルドな夏の到来です。

猛暑が好きという人はあまりいないと思いますが、
私自身は気温が上がる夏の方が、体調は良くなります。
おそらく汗をたくさんかくからでしょう。
元々冷房があまり好きではありませんから、
よほど蒸し暑くない限りは、
真夏でも窓を開け、
風を入れて車を走らせますし、
アトリエで絵を描く時も同様です。

とは言うものの、
近年の猛暑に時には負けて、
エアコンに頼ってしまう自分がいるのも確かです。

一方、夏は画題としては
なかなか魅力的なものが揃っています。

向日葵、
蓮、
入道雲、
深緑の木立、
木漏れ日など、

私が好んで描く画題ばかりです。
しかし、夏の画題は
そういう定番ばかりではないのです。

そこで今回は、
私なりに
「真夏のハードボイルド」を表現した一枚を紹介しましょう。

《雲》は30年ほど前に描いた絵で、
私が「殺風景な美」を追い求めていた頃の作品です。
「殺風景な美」は、
フリードリヒやワイエスの絵から学んだものですが、
この絵でもできる限り潤いのある要素を排除して、
ハードボイルドな雰囲気を醸し出すように心掛けています。
この絵における「ハードボイルド」とは、
大地に降り注ぐ真夏の容赦ない陽射しであり、
無機質なドラム缶の群れであり、
正体を覆い隠した車です。

「日陰もない、こんな炎天下の場所には行きたくないな」と
見る人に思わせるのが、この絵のねらいです。
と同時に、
およそ絵画的でない、
そんなハードボイルドな光景にも
一種の「美」があることを伝えたいのです。
そこで描こうとするモチーフたちを、
道路脇の広々とした空き地に配置し、
背景を夏雲の浮かぶ空だけにして、
孤立した存在感を強調してみました。

というわけで描かれているのは実景ではなく、
私が頭の中で構成した真夏のイメージです。
無造作に並べられたドラム缶の群れ、
シートカヴァーが掛けられた乗用車、
そして腹を空かせた野良犬。
上空からの強烈な陽射しが、
それらのものを光と影の中にくっきりと浮かび上がらせています。
部分図を見ると、
車のシートカヴァーやドラム缶の質感が、
執拗に描き込まれているのがわかるでしょう。

この頃はシートカヴァーの掛けられた車や錆ついたドラム缶を描くのが好きで、
よく取材もしました。
しかし、これらのモチーフからしばらく離れている内に、
近年はすっかり見かけなくなりました。
この辺りにも時代の移り変わりが感じられます。
ちなみに、昨年『12月の絵』として登場した《風の日》は、
この《雲》と対になる作品で、
両者は夏と冬の「殺風景の対照」を表しています。
《風の日》を覚えていられる方は、ぜひもう一度見比べてみてください。

泉谷 淑夫

 

 

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