Gallery -如月-《牛乳を注ぎ続ける女》

「牛乳を注ぎ続ける女」

2月がやってきました。
私が勤めている大阪芸術大学でも後期の授業が終わり、
後は卒業制作展と卒業式を控えるだけとなりました。

2月には大阪芸大の卒展とともに私が楽しみにしている展覧会がもう一つあります。
それは西洋の画家の中で今一番人気と言ってもいいフェルメールの展覧会で、
2月初旬まで東京で開かれていたものの巡回展です。
少し残念なのは東京展では9点出品されていたフェルメール作品が
6点に減ってしまうことです。
それでも、日本におけるフェルメール人気に火をつけたと言われる
2000年開催の大阪市立美術館のフェルメール展が、
5点出品で大騒ぎされたことを思えば、6点でもすごいことなのですが。

もう一つ残念なのは、東京展のチラシでもメイン作品として扱われていた
《牛乳を注ぐ女》がその6点の中に含まれていないことです。
この作品はフェルメールの画業の前半を代表する傑作ですから、
大阪のファンも見たかったのではないかと思います。

そこでというわけではありませんが、
今回はその絵の最新のパロディ作を皆さんに紹介したいと思います。

このパロディ作に関しては昨年10月の『ギャラリー暦』で予告しましたが、皆さん覚えているでしょうか?
『フェルメールの絵に忍び込んだ猫たち』の新シリーズとして、
《牛乳を注ぐ女》から生まれた『温かい場所』という作品を紹介した時のことです。

その時の予告は

「この女性を使った全く別の絵のアイディアも浮かびました。
それはとてもシュールでユーモラスなイメージです。」

というものでした。

つまりその時点では、絵のイメージが頭の中に浮かんだけで、
まだ何も描いてはいなかったのです。
にもかかわらず予告したのは、
絶対に面白い絵になるという予感がしたからです。

しかしその後は他の絵の制作に追われていたので、
なかなかその絵に取り掛かることはできませんでした。
昨年の12月になってようやくイメージを具体化する作業に取り掛かりました。
それから約1か月後、その絵は完成しました。

付けられた題名は《牛乳を注ぎ続ける女》です。

では、その絵をご覧ください。

《牛乳を注ぎ続ける女》

 

画像をクリックするとモニタのサイズに合わせて全体像が表示されます。

 

なんともふざけた絵でしょう!?

そもそもこの絵の発想は、
この女性は17世紀からずっとこの姿勢で牛乳を注ぎ続けているんだ
と思った瞬間に生まれました。

牛乳をずっと注ぎ続けたらどうなるんだ?
容器はすぐにいっぱいになって、
あふれた牛乳が足元から段々と台所を浸していって、
そこがいっぱいになったら家中が牛乳に浸され、
やがて地表は牛乳で埋め尽くされて、
海のようになってしまうのか、
などという妄想をつい楽しんでしまったのです。

その結果がこの絵というわけです。

もともとこの絵の批評では、
「情景の永続性」ということがよく語られます。
この絵はそこからの他愛のないナンセンスな妄想なのですが、
時に人はそういうものに惹かれるのではないでしょうか。
ばかばかしくてつい笑ってしまう絵というものがあってもいいと思うのです。

ところで、この絵で一番苦心したのはどの部分だと思いますか。

実は水平線の位置です。
《牛乳を注ぐ女》の水平線の位置はこの絵よりも下で、
牛乳を注ぐ女の右腕の少し上あたりです。
しかしその位置だと野外空間の場合は広がりや奥行を感じさせにくいのです。
そこでこの絵では水平線の位置をあえて上げることにしました。
皆さんの目に自然に映るといいのですが。

この絵の実物は、5月に天神山文化プラザで開催予定の『陽のあたる岡第9回展』に出品する予定ですので、
興味のある方はぜひ見に来てください。

泉谷 淑夫

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