Gallery -如月-《良い報せ》《希望》

《良い報せ》

 

《希望》

 

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「良い報せ」「希望」

1月のギャラリー暦で、
今年の干支にちなんだ「鳥の絵」の紹介はまたの機会に、
と書きましたので、
忘れないうちにと思い、
2月の絵で「鳥の絵」を紹介することにしました。

最近は何かと不安要素や閉塞感が強い世情ですから、
希望のある絵を選びました。

私がよく描く鳥は、
鳩、鴉、鴎、鳶などですが、
大作では主役を貼ることはない彼らも、
小品ではしばしば重要な役割を担って登場します。

今回はそれらの小品群の中から、
鳩を描いた2点の作品を選んでみました。
2点はご覧のように良く似た構図です。
実は左の絵を描いたところ好評だったので、
同じ構想で右の絵を別バージョンとして描いたのです。

サイズはいずれも 約 20×10 ㎝ ですから、
ハガキ(15×10 ㎝)を縦に伸ばした程度です。
こういう小さな画面に、
大きな物語の世界を描くところに絵の面白さがあります。

この2点は下から見上げた視点で、
アーチ型の高窓の棚板にとまった鳩を描いています。

窓からは煌々と月の光が差し込み、
鳩は何かの枝をくわえています。

さてこの絵の背後にある「大きな物語」とは一体何でしょうか?

「何かの枝をくわえた鳩」から、
思い出しませんか。

そうです。
旧約聖書の『創世記』に記された

『ノアの洪水』のお話です。

『創世記』によれば、
人類の始祖アダムの末裔にあたるノアは信心深い男でしたが、
当時の社会は堕落し、人々は傲慢になっていました。
その姿に失望した神は、
大洪水を起こして、
地上界を一旦リセットすることにしました。
そしてノアにだけ洪水の予言を告げ、
巨大な木造の方舟を造らせ、
その中に地上の生きものをひとつがいずつ保護するよう指示しました。

ほどなく予言どおりに大洪水が起こり、
方舟に乗ったノアの家族と生きものたち以外は、
すべて激流に飲み込まれ、
滅んでしまったのです。

大洪水を引き起こした大雨は40日間も降り続け、
地上のあらゆるものを飲み込みました。

やがて雨が止み、
風が吹くと、
水は徐々に引き始めましたが、
ノアには外の様子が全く分かりませんでした。

そこで鳩を窓から放ち、外の様子を探らせました。

しかし鳩はまだとまる場所がなかったため、帰ってきました。

頃合いを見てノアは再び鳩を放ちました。

数日後、鳩が戻ってくると、
今度はオリーブの枝を加えていました。
それを見たノアは、水が引いて地上が姿を現したことを悟りました。

最後に放った鳩はもう帰ってくることはありませんでした。

そこでノアは、アララト山上に乗り上げていた方舟から、
家族と生きものたちを連れて地上へと降り立ったのです。

ここから人類の新しい歴史が始まりました。

これが旧約聖書に記された『ノアの洪水』のあらましです。

この話は自然災害が頻発するようになった昨今では、
妙なリアリティーを持っています。
もしこのようなことが本当に起こったとして、
放った鳩がその嘴に枝をくわえて戻ってきたら、
待っていた人々はどれほど喜び、
感激することでしょう。

『ノアの洪水』のお話では、
鳩はまさに希望の象徴なのです。
そして私がこの場面を夜に設定し、
煌々とした月明かりを描いたのは、

雨が上がって晴れていなければ、
月は出ないからです。

その意味で月もまた希望の象徴なのです。

だからこそ左の絵に『良い報せ』、
右の絵に『希望』という題名を付けたのです。

ちなみに『良い報せ』を買われた方は、
受験生のいるお母さんでした。
後日談ですが、そんな母心にお子さんは見事に応えたそうです。
私の絵も少しは役立ったのでしょうか。

今は受験シーズン真只中ですから、この実話は決して「落ち」ではありませんよ!

泉谷 淑夫

 

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