美術の散歩道

丸5年休むことなく続いた『ギャラリー暦』に代わって、今月から新しいブログの企画『美術の散歩道』が始まります。

『美術の散歩道』は、私が岡山大学で初めて出した一般教養科目の名称で、当時は抽選ではなく希望制でしたので、多い時には受講生が300人を超えるほどでした。
人数は多くてもこの科目に興味のある学生が来ていたので、授業は毎回熱く盛り上がりました。
作品紹介と鑑賞は、当時でも珍しい手差しのスライド映写機での投影という極めてアナログな手法によるものでしたが、それがまたこの授業のカラーにもなっていたのです。

扱う対象は名画ばかりでなく、マンガやアニメなどのサブ・カルチャーを含む美術全般だったこともあり、まさに散歩しながら美術の色々な面を発見していくという内容でした。

やがて『美術の散歩道』は『美術鑑賞入門』と名称を変え、パソコンのスライドショーによる授業へと進化?し、今へとつながっていくのですが、今回新しい企画を始めるにあたり、あえて『美術の散歩道』のテイストを復活させてみようということになったのです。
つまり学術的な深入りはできるだけ避け、色々な美術を対象として、知識よりも知力を皆さんと共に磨いていこうという趣旨です。
よろしくお付き合いください。


第一回「世界一有名な婦人」

《モナ・リザ》レオナルド・ダ・ヴィンチ

さて、その第一回目の内容を何にするか、ですが、これは色々考えました。

材料はたくさんあるのですが、第一回目にふさわしい内容となると、やはりあの方に登場してもらうしかないかなと思います。

あの方とは「世界一有名な婦人」であるモナ・リザです。

モナ・リザ登場

実はこの決定には伏線があります。

3月に今勤務している大阪芸術大学の卒業式に初めて出席したのですが、そこで思いがけなく卒業生のパフォーマンスに遭遇したのです。

その女子学生は他の学生たちがほとんど集合したタイミングを見計らって、悠然と登場しました。

なんとあの名画《モナ・リザ》の複製の顔の部分に穴をあけて、そこからモナ・リザに似せてメイクした自身の顔をにゅっと突き出していたのです。

名画の人物に成りきるパフォーマンスと言えば、森村泰昌氏が有名ですが、この女子学生の場合はその姿を写真に撮るのではなく、額縁付きの複製画を使って絵の中に入りこみ、自由に出没できる点がユニークでした。これは立派なパロディとしての芸術作品です。(写真参照)

《幻視》泉谷淑夫

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《世界一有名な婦人に抱かれた猫》泉谷淑夫

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モナ・リザを使ったパロディ作品と言えば、私も2種類ほど試みています。一つはモナ・リザの顔を横に倒して、ボヤっとした人物の群像に置き換えたもの、もう一つはモナ・リザの首から上をカットした構図で彼女の腕に我が愛猫を抱かせたものです。(いずれも『ギャラリー暦』では紹介していますので、興味のある方はアーカイブでご覧ください。)

どちらも大変好評ですが、パロディというのは元ネタが有名であればあるほど効果的なわけで、あらためて世界一の名画《モナ・リザ》の威力を再確認している次第です。

そこで思いついたのが、あの女子学生にもうひとひねりしてほしかったというアイディアで、それはメイクの際についでにちょび髭を着けてもらいたかった、というものです。
美術史に詳しい方は、もうピンときたかもしれませんね。

そうです、《モナ・リザ》の複製画に鉛筆でちょび髭を描き加えて、《彼女はお尻が熱い》と題したパロディ作品を作ったマルセル・デュシャンのアイディアを加えたら二重のパロディとなり、「こいつできるな!」とさらに印象度をアップしたのではないでしょうか。こんなことを考えさせてくれた彼女に感謝して、今回はペンを置きます。

《モナ・リザ》は奥深い名画ですから、この続きは6月にやります。

集合写真

ちなみに集合写真の方の手の決めポーズは、大阪芸大のゼミ生たちが考えてくれた羊の爪のポーズです。羊は偶蹄目で蹄が二つに分かれているからです。

流行りませんかね?